【お勧めの本】俺はロンメルだ

最近読んで特に面白かった本を紹介したいと思います。小説「俺はロンメルだ」は、1976年の7月5日にかんべむさしによっていんなあとりっぷ社から刊行された短編小説集になっております。「ならやま審議会」から「道程」までの、奇抜なアイデアによる11編の作品が収められています。

シンクタンクや広告代理店などの内実を暴いた、「ならやま審議会」から本作品集は幕を開けていきます。大企業に務める主人公は、ある時業界の姥捨て山として恐れられる奇妙な小部屋に呼び出されます。著者は小説家としてデビューする前にはコピーライターとして働いていた経歴の持ち主で、20世紀後半のマスメディアの発達がリアルに再現されていました。インターネットやSNSが世の中に普及する遥か前の時代が舞台になっていますが、メディアの情報を一方的に鵜呑みにする危険性を鋭く指摘しているのが印象深かったです。新しい価値観が次々と生み出されていく中でも、取り残されてしまった人たちに注いでいる著者の優しさ溢れる眼差しを感じました。

著者は双子の姉妹の父親としても有名で、子育てに関する苦労と喜びを活かして「フタゴサウルスの襲来」というエッセイ集も発表しています。この作品集に収録されている「子宝船の出発」では、若干26歳にして7つ子を授かった男性の右往左往する様子がコミカルなタッチで映し出されていきます。双子が誕生する確率は80の1乗分の1になりますので、7つ子の場合は約2000億分の1という天文学的な数値に達します。本書によればオーストラリアで9つ子が実際に産まれたという事例があるそうですから驚きです。毎日の食事・洗濯・睡眠の風景が、戦場のように描かれていて笑わされます。大学を揃って卒業した7人の子供たちから父への、思わぬ贈り物にはホロリとさせられました。

全編を通してウィットとユーモアたっぷりとしたメッセージの中でも特に良かったのは、「昨日から始まるはずだった『幸福』の象徴物が、根底からいっきょに否定されてしまったのだ。」というセリフでした。ナチスドイツの時を越えた襲撃をテーマにした、「逃げる」という短編に登場する言葉です。大阪市郊外の千里ニュータウンで仲睦まじい新婚生活を送っていたカップルに訪れることになる、壮絶な運命に惹き込まれていきました。平穏無事な日常が過去の過ちによってあっさりと奪い去られてしまう、戦争の理不尽さが伝わってきます。不条理な現実に屈することなく、自らが生き延びるために決死の逃避行へと繰り出していく若い男女の姿には強く心を揺さぶられました。

1997年の「百の眼が輝く」まで18冊の短編集を発表している著者の、初期の傑作になります。横田順彌や堀晃を始めとする第3世代と評されるSF作家の作品に慣れ親しんだ方たちには、是非とも手に取って頂きたい1冊です。

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