【お勧めの本】串刺し教授

小説「串刺し教授」は、1985年の12月10日に筒井康隆によって新潮社から刊行された短編小説集になっております。「旦那さま留守」から表題作「串刺し教授」まで、バラエティー豊かな17編の短編が収められている作品です。予測不可能なストーリー展開と、強烈かつ風刺が効いたオチが見どころになります。

演出家の檜山正之介夫妻が稽古に出かけて誰もいなくなった邸宅を舞台にした、「旦那さま留守」からこの作品集は幕を開けていきます。1979年に文芸雑誌に連載されていた短編になり、家庭用のお手伝いロボットが普及した近未来の世界が設定されていました。人工知能や自動運転技術が現実のものなった今の時代を予感したかのような、リアリティ溢れる描写には驚かされます。無機質で冷血なはずの機械のボディーの奥底に、次第に喜怒哀楽が芽生え始めていく様子に惹き込まれていきます。最先端のテクノロジーだけを追い求めていく危険性への鋭い指摘と共に、ロボットの目を通して映し出されていく人間の愚かさや滑稽さにも印象深いものがありました。

20世紀後半に活躍したSF作家たちが一堂に会する、「日本古代SF考」が圧巻でした。筒井康隆自身が物語の中の登場キャラクターとなって自由奔放に暴れ回る、遊び心が満載です。虚飾のネオンに包まれた夜の銀座の街並みを歩き回るのは、矢野徹や光瀬龍などのプライベートでも親交が深い小説家ばかりでした。純文学の大御所や評論家かが幅をきかせて肩身が狭い中でも、それぞれの創作活動へと打ち込んでいく姿が心に残りました。今現在では半数以上の作家がこの世を去ってしまったこともあり、一抹の寂しさも感じてしまいます。星新一や小松左京を始めとする、同じ時代を駆け抜けた仲間たちとの時を越えても揺らぐことのない絆にはホロリとさせられました。

全編を通して満ち溢れている毒のある笑いとスラプスティックな展開の中でも特に良かったのは、「ああ、この人は風なんだな」というセリフでした。この本の中に収録されている、「風」という短編小説に登場する言葉になります。息子が長らく失踪中で、ふたりで暮らしている夫婦の会話だけで構成された異色な作品でした。真夜中に表の扉を叩く音に目が覚めた、初老の男女の姿が思い浮かんできて胸が痛みます。思わぬ来訪者に戸惑いながらも、失われた親子の時間を取り戻していくシーンには心温まるものがありました。ブラックユーモアが持ち味で時には問題発言も辞さない攻撃的なイメージが強い著者の、隠された優しさを垣間見ることができました。

現代の巷に溢れかえっている文学作品に対して物足りなさを感じている読書家の皆さんには、是非とも手に取って頂きたい1冊になっています。

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